合同会社設立 株式会社のほうが対外的信用が高いのか?
弊社では年間100社程度の会社設立(株式移転、会社分割含む)をさせていただいています。
初めて会社設立される方から、よくいただく質問の一つとして
「株式会社と合同会社。どちらにするべきですか?」というご質問です。
費用面の違いは分かりやすいのですが、よく言われる「株式会社は対外的信用が合同会社より高い」は結構曖昧な説明だと思います。
今回はこの点にフォーカスして解説していきます。
1.株式会社、合同会社の違い。メリット、デメリット
一般的には、書籍、ネット上、AI検索からは以下の違いが指摘されます。
<株式会社のメリット>
1.対外的信用が高い
2.出資者と運営者を別の人にできる
3.資金調達がしやすい
<株式会社のデメリット>
1.設立コストが合同会社より高い(実費で15万円程度高い)
2.役員変更を少なくとも10年おきに行う必要がある
3.決算公告義務がある
少し古い書籍などは、平成18年から合同会社制度が始まって馴染みがないことを対外的信用の理由に言及していますが、すでに施行から20年近く経過した現在では理由にはならないと思います。
2.合同会社設立後に寄せられたご相談
一時期、設立コスト面の安さ、設立申請までのリードタイムの短さ(最短1営業日で設立申請可能です)から合同会社設立のご依頼を多くいただきました。
設立後に寄せられたご相談の多くは、「銀行口座が開設できない」、というものです。
都市銀行のほうが審査が厳格なこともあるため、近隣の地銀、信金での開設を勧めるも、一部のお客様はそちらでも開設できないケースがありました。
その結果、株式会社に組織変更、場合によっては解散させてしまう事例もございました。
3.銀行口座開設を断られるケース
合同会社に限らずですが、目的事項に
・風俗営業が入っている
・貸金業が入っている
このケースは口座開設を断られることがあるようです(開設できるケースもあります)。
上記以外にも情報商材販売等、事業実態が把握しづらい業態も開設にご苦労されるようです。
もちろん、別法人もしくは個人事業での取引実績(特に融資を受けている場合)がある場合は問題なく開設できているようです。
4.合同会社が口座開設に苦労する理由
合同会社は安く、早く設立できる反面、株式会社に比較して振込詐欺の受皿として悪用されやすい傾向があります。
それ以上に大きいと思われるのは、実質的支配者リスト制度の創設です。
平成30年から始まった制度ですが、合同会社においては同制度の適用外で実質的支配者リストは作成されません。
他方、株式会社が口座開設するにあたっては実質的支配者リストの提供を求められます。
実質的支配者リストは公証人もしくは法務局により認証される公的書類です。
追加で提供する公的書類が株式会社の信用性を高めていると考えられます。
合同会社は実質的支配者リストの提供ができないため、口座開設においてはより慎重な審査がされている可能性が否定できません。
いずれにしても各金融機関の審査基準、口座開設申込者の与信が絡むため、一概には断言できませんが、一つの要因ではあると思います。
私自身も合同会社を運営しておりますが、先日新規の金融機関から融資を受けるにあたり、当初聞いていた審査時間より長く時間がかかりました。
担当者に理由を尋ねたところ「本部で合同会社の点がネックになっていたようで」との回答でした。これが本当の理由かどうかは定かではありませんが・・・(実は与信上の問題があったのかもしれません)
5.持分会社ならではの論点
講学上、合同会社は持分会社に区分されます。
持分会社とは所有と経営が一体化された組織であり、合名会社、合資会社も含まれます。
特に小規模、零細会社の株式会社は100%株主=代表取締役1名で構成されることが多く、外見上合同会社と変わらないのでは?というご意見をいただくことがあります。
平常時は税制面も含め株式会社と変わらないのですが、100%出資の唯一社員が死亡した際の取扱いが異なります。
株式会社の場合、株式という財産権の相続として原則、相続人承継されます。
他方、合同会社において社員の欠乏は解散事由(会社法第641条)とされています。
解散後は社員総会の開催ができないため、定款に清算人の定めがない場合は、原則として利害関係人の請求により裁判所が清算人を選任する流れになり煩雑となります(会社法第647条第2項)。
これを回避するためには相続人承継を認める定款規定の工夫が必要となります。
6.まとめ
実は、グローバル企業であるアマゾンやグーグル(アルファベット社)の日本法人も合同会社で、有用な法人形態であります。
合同会社は手軽に法人格を取得できる反面、取引上支障を来すことがないか事前に確認を行いながら進める必要があります。